大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和50年(ラ)11号 決定

抗告人 沢田晃(仮名)

相手方 長谷川ミツ(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は「原審判を取消す。事件本人の親権者を相手方より申立人に変更する。相手方は直ちに事件本人を申立人に引渡せ。」との裁判を求め、その理由は別紙抗告〈省略〉の理由に記載のとおりである。

よつて、一件記録を精査し検討するに、当裁判所は、原審判と同一の理由により、事件本人長谷川宏の親権者を相手方から抗告人に変更することは、子の福祉の見地からみて相当でなくかつ相手方に対し事件本人長谷川宏の引渡を命ずる必要はないものと認める。

なお、抗告人は、抗告の理由として、事件の当事者は、家庭裁判所に対し、審判の基礎とされるすべての事実及び証拠につき、自己に意見陳述の機会が与えられることを要求する権利があり、抗告人の右権利を無視した原審判は憲法三二条違反であると主張する。

しかしながら、家事審判法九条一項乙類七号に規定する親権者の変更の審判は、家庭裁判所が、当事者の意思に拘束されることなく、子の福祉のため、後見的立場から、合目的的に裁量権を行使するものであつて、その審判手続の性質は本質的には非訟手続であるから、訴訟における場合とは異なり、事件の当事者であつても、家庭裁判所が調べた資料全部について、その開示を要求し、かつこれに対する意見陳述の機会の付与されることを求める権利はない。もつとも、家庭裁判所は、手続の実際においては、関係人に対し、家事審判規則一二条により相当と認める限度で、記録の閲覧もしくは謄写を許可し、また審問ないし申述の形式により、事実につき陳述の機会を与えているのが実情であり、抗告人もまた、原審において、家事審判官の審問をうけ、許された限度で記録を閲覧、謄写し、かつみずから上申書、陳述書及び「植田俊策裁判官に訴える」と題する書面等を提出し、原審家事審判官に対し、事件につき積極的に自己の主張や意見を表明しているのであつて、原審が抗告人に対し異例の取扱いをしたものでないことは記録に徴し明らかなところである。

これを要するに、原審判手続には所論の如き瑕疵があるとは認め難く、その他本件記録及び関連記録を精査しても原審判にはこれを取消すべき違法の点は認められない。

よつて、原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 越智傳 裁判官 古市清 辰巳和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例